2011年7月25日月曜日

原発と放射能を考えるシンポジウムのご案内

 安全神話の実体,放射能汚染の実際,原発訴訟のこれからをテーマに下記の通りシンポジウムを開催します。

日時 8月30日 午後6時~8時
場所 前橋商工会議所 会議室ローズ
入場 無料

 講演者、パネラーには、放射能防護の専門家、元原発設計者、泊原発(北海道)運転差止め請求訴訟弁護団長を予定しています。
東電福島第1原発事故は群馬県民の健康にどうような影響を持つのか、私たちはどのように対処していけばよいのか、このような事故は防ぐことができなかったのか、原発メーカーの責任は、そして、各地原発の地元では今何が、をご一緒に勉強してみませんか。

問合せ先  法律事務所コスモス 弁護士 樋口和彦
電話 027-256-8910

2011年6月29日水曜日

公開質問に対する知事候補者の回答

 7月3日(日)開票予定の群馬県知事選挙に立候補者に、原子力発電所問題についての公開質問をしたところ、昨日までに2名の候補者(後藤候補、小菅候補)から回答が得られましたのでその内容をお知らせします。選挙戦真っ最中にもかかわらず、丁寧な回答を寄せてくれた両候補の原発問題に対する真摯な対応を多としたいと考えます。
 いずれの候補も、同様な問題意識を持たれ脱原発という同じ方向を目指していますが、政策の具体化のところで違いが見られました。それぞれ興味深い提言もありましたが、具体性や実現性に疑問を感じる点もなくはなく、現実の政策とするには更なる検討が必要であるようです。それはともかく、4人の候補者中2名が脱原発を主張する事態となり、これまでの「安全神話」を背景とする積極的原発推進とは異なる新しい潮流が現われてきたことは明らかだと思います。残りの選挙戦を通じて、原発事故問題に関する議論がより深まることを期待するとともに、どの候補者が当選しても、今後、この問題についての県民の意思を的確に収集・反映することが求められているとの感を強くします。
 
質問1.放射線被曝に対する県民の不安の解消について
県内各地で平常値よりも高い空間放射線量率が計測されていることなどから、小さい子供を持つ家庭や教育現場を中心に県民に不安が拡がっています。これらの不安を解消するために、県としてどのような方策を執っていくべきとお考えでしょうか。

【後藤候補の回答】
①正確できめ細やかな放射能の測定と迅速な情報公開。また、測定機器を保健所に備え不安を自ら測定できる体制を作る。
②福島第一発電所で起こっている事態を県として独自に情報を収集し公開する。現状では東京電カと政府発表の信頼性が少なく不安が解消できない。
③保健所に「放射能なんでも相談室」を設置し、放射能についての正確な知識と情報、啓発を強める。

【小菅候補の回答】
まず、徹底したきめ細かい計測を行い、「見えない放射線」を 「見える」ようにすること。その上で、線量率の高い校庭・園庭,公園などについては、表土の入れ替えなどの措置を取る必要がある。さらに父母・教師や予どもたちの声を聞き、専門家の意見も集約しながら、県民に健康被害が及ばないよう万全の措置をとることが必要。

【当会のコメント】
 計測を充実させることが必要である点については、両候補とも同じ見解でした。後藤候補は、測定機器を保健所に備え住民自ら測定できる体制を作る、県独自の情報収集、放射能なんでも相談室の設置と踏み込んだ提言をしています。
一方、小菅候補は、計測にとどまらず表土の入れ替えなどと除染の必要性まで言及しています。
 ただし、「福島第一発電所で起こっている事態についての県独自での情報収集と公開」(後藤候補)については、東電が情報を出さない限り実行できませんから、実現性に疑問を感じざるを得ません。また、「父母・教師や予どもたちの声を聞き、専門家の意見も集約」(小菅候補)ついても、方法について具体性が乏しいと感じました。

質問2.被災者の受入や支援について
県内各地の自治体、民間の団体あるいは個人で、被災者の受け入れが行われています。これらの受入はさらに長期にわたることが予想され、受け入れ側の負担も大きくなっています。これらの負担を軽減し、被災者の支援を進めていくために、県としてどのような方策を執っていくべきとお考えでしょうか。

【後藤候補の回答】
①被災生活が長引くことが予想されるため働く希望者全員に職場を斡旋・提供する。農作業なども含め被災者希望を正確に把握した就労支援。
②被災者支援ボランテイアの育成と組織化。

【小菅候補の回答】
被災者は地震・津波という天災の被害者であるとともに、原発事故という人災の被害者でもある。それだけに、すべての被災者が1日も早く人間的な生活を取り戻せるよう支援すること、金銭的にも苦境におちいらないよう支援することは・政治の重要な役割。
災害救助法による国の費用負担の適用が必ずしも十分におこなわれていない状況もあり、県としてこれを最大限活用していく。また、避難者の住居費、生活費、医療・教育費などについての東電による補償も確実に実施させる。以上の点で全力をあげることを前提に、それでも不足する場合は、県民の理解を得ながら県独自の予算措置を講じることも検討する。

【当会のコメント】
両候補とも、被災者のより一層の支援が必要としている点は同じでした。後藤候補は就労支援をより重要と考えているようです。また、ボランティアの必要性についても言及しています。一方、小菅候補は、災害救助法による国の費用負担や県独自の予算措置、東電による補償など予算について踏み込んでいます。

質問3.損害賠償の支援について
事故は、県内の農業をはじめ観光業その他の産業に大きな被害をもたらしました。国は損害賠償は第一義的には東京電力が行うものとしていますが、県内の中小事業者が東京電力と個別に損害賠償の交渉を行うことは、大きな困難が付きまといます。そこで、損害賠償が確実に行われるために、県としてどのような方策を 執っていくべきとお考えでしょうか。

【後藤候補の回答】
①損害についての正確な情報の収集と損害額の確定。
②損害を受けた他県との情報交換と連携。
③弁護士など専門家の協力を待て東京電力や国と話し合いを進める。

【小菅候補の回答】
JA が生産者の被害補償交渉をまとめて実施したように、同様の取り組みができる業界団体については、県としてもそれを支援していくことが必要。また、その枠組にはいらない事業者については、県・市町村に相談窓口をつくり、その実態に合わせて新たな 「団体」を立ち上げるなどの支援をおこなっていくべき。これらの推移をきちんと掌握し、さらに必要なことがあれば惜しみなく手立てを講じる。いずれにしても、県としても被害の救済漏れが1人でも生じないよう万全の対応をするべき。

【当会のコメント】
 両候補とも、損害賠償の支援が必要としていました。後藤候補は、他県との情報交換と連携および弁護士など専門家の協力をあげ、小菅候補は相談窓口の設置および新たな団体の立ち上げなどをあげています。

質問4.電力問題について
3月の計画停電は、県民に多くな混乱をもたらしました。さらに、この夏も大きな節電を余儀なくされております。このような混乱を防ぐためには平素からの準備が大切であることを改めて思い知らさせれました。
そこで、安定した電力供給のため、県としてどのような方策を執っていくべきとお考えでしょうか。

【後藤候補の回答】
① 出来る限り生活を見直し節電に努める県民啓発活動の強化。
② 民間企業に対しても業種月り,業界団体別に節電計画策定を指導し実践する。
③ 電力供給情報の正確な把握と情報公開。

【小菅候補の回答】
大企業の大口需要に対して、需要調整契約による需要抑制、電気事業法に基づく使用制限など、現行の制度の下でも可能な対応によって、県民生活への影響可能な限り少なくするよう、政府・東電に強く働きかけることが必要。また、県内でも都市部を中心に「24時間社会」といえるような状況もあるなか、「エネルギー社会」にむけたとりくみを大胆に呼びかけていく。自然エネルギーの普及拡大のために、家庭の太陽光発電設備や小水力・風力などを利用した地域発電への県としての補助制度を拡充・創設し、取り組みを加速していくことが緊急に必要。

【当会のコメント】
両候補とも、省エネの取り組みが必要と考えていました。具体的な政策としては、後藤候補は業界団体別に節電計画策定を指導することをあげ、小菅候補は自然エネルギーへの県としての補助制度を拡充・創設することをあげています。
いずれも、具体的な政策とするにはさらなる検討が必要だと感じました。また、県企業局で行っている発電事業への言及がなかった点には物足りなさを感じました。

質問5.エネルギー問題について
我が国は、これまで原子力発電をエネルギーの中心にした政策を進めてきました。今回の事故で、改めてその是非が問われています。そこで、今後のエネルギー政策のなかで、原子力発電をどのように位置づけるべきだとお考えでしょうか。

【後藤候補の回答】
①脱原発。原子力発電は、計画的に廃止する。現在操業を休止している原発については再起動しない。操業中の原発についても計画的に廃止する。
②群馬県の自然エネルギーの潜在力は高いので、自然エネルギー開発研究センターを設置し「自然エネルギー日本一」の県を作る。世界から優秀な研究者を招致する。
③日本のエネルギー政策の抜本的な改革を行い技術の総力を自然エネルギーや高性能蓄電装置の開発等に注ぐよう政府に要求する。

【小菅候補の回答】
原発から撤退する姿勢を明確に打ち出し、5~I0年以内に全廃させるべき。そのためのプログラムを策定するよう、政府に強く働きかけていく。「安全な原発」などありえないことは、今度の福島原発事故で嫌というほど明確になった。原発の新増設計画を中止・撤回することはもちろん、危険が特に大きい浜岡原発などの廃炉をすみやかに決断し、実行することが大事。同時に、電力不足による社会的混乱や安易な火力発電への転換 (CO2の増大)を避けるために、自然エネルギーの本格的導入と低エネルギー社会に向けての努力を急速に進めていかなくてはならない。

【当会のコメント】
 両候補とも脱原発を鮮明に打ち出しています。後藤候補は、原発を再起動をしないとしていますが、毎年定期点検が行われることを考えると、これは来年夏前にはすべての原発を停止することになります。果たして、1年で節電や自然エネルギーで電力需要をまかなえる体制が造れるのでしょうか、実現性に疑問を感じざるを得ません。小菅候補は、5~10年以内に全廃とスピードに差がありますが、やはり、もっと具体的な検討が必要であると感じました。
 なお、原子力発電と一括りにした設問であったので、致し方ありませんが、いずれの候補からも核燃料サイクルについての言及がなかった点については、物足りなさを感じました。
 福島県のエネルギー政策検討会が、核燃料サイクルを含むエネルギー政策全般についてかなり突っ込んだ検討と提言をし、報告書・パンフレットを公表しています。それらを参考にして、さらに議論を深めていって欲しいと思います。

2011年6月22日水曜日

原子力損害賠償紛争審査会の指針の意味

 私は6月19日、南相馬に行って被災者の法律相談を担当しました。そこで出された質問のいくつかは、原子力損害賠償紛争審査会がこれまでに発表した第1次指針と第2次指針によって補償対象とされた損害以外は補償されないのか、というものでした。たとえば、原発から31キロの住民からは、30キロ圏外の自主避難者は補償を受けられないのか、「指針」の発表以来、30キロ圏内の住民と圏外の住民間で隙間風が吹き始めている、という相談を受けました。
 そこで、ここでは、この「指針」の意味を考えてみることにしました。
 原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)というものがあります。その3条は、原子力損害について原子力事業者が「賠償する責めに任ずる。」と規定しています。法律上は「損害賠償」であって、本来は賠償義務を負うものではないが何らかの政策的配慮から経済的償いをする「補償」とは異なります。「指針」が、敢えて「補償」という言葉を使う真意は何か、気になるところです。 
 さて、この法律では、「原子力損害」とは、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用等により生じた損害、つまり、原発の運転などから生じた損害をいうとされています。そして、「AからBが生じた」(これを「因果関係」と言います。)と言えるためには、Aがあれば通常はBを予想できるという関係が必要だとされています(これを、「相当因果関係」と言います。)。そうすると、賠償の対象となるか否かは、通常の感覚で、その損害が原発により生じるものと予想しうるものであるか否かによることになります。「指針」に書いてあるか否かは関係ないのです。
 では、どうして「指針」が作成され、発表されるのでしょうか。
 今回のような事故が発生すると、広い範囲で様々な損害が発生します。そして、東電に賠償を求める人は、自分の損害が原発によって発生したものであることを証明しなければなりません。この証明を個別の人が行い、東電が個別にこれを判断し個別に損害を計算すると、事務処理がパンクするでしょうし、損害を受けた人々の間での不公平な結果をももたらす可能性があります。そこで、原賠法は、原子力損害賠償紛争審査会が東電と被害者の仲介をすることを定め、その仲介によって上記のような不都合を回避しようとしたのです。今回の「指針」は、審査会がそのような仲介をするための基準として作成したものなのです。この基準に該当すれば、被災者が「指針」に書いてある資料を用意して請求すると、東電は賠償の対象となる損害と認め、「指針」に定める方法で損害額を算出しましょう、ということになります。
 したがって、「指針」に定めがない場合は、賠償の対象にならないというのではなく、賠償を求める人が、損害があったこと、その損害が原発と「相当因果関係」があることを証明する必要が生ずるということになるのです。
 ここから、二つのことについての注意が必要です。
 一つは、「指針」を東電が責任を免れる口実に利用させないようにすることです。東電は、「指針」に記載のないことを理由に賠償を否定することがあってはなりません。被害者の言い分と提出された証明資料を誠意を持って聞き、調べ、判断すべきです。
 二つ目は、被害者は、日々、損害に関わると思われることを日誌風にメモしたり、写真に撮影しておいたりして記録し、領収書等を保管しておくことです。そのための道具として、「被災者記録ノート」というものがあります。これについては、群馬弁護士会(0120-445-930)にお問い合わせください。
 以上の次第で、「指針」に記載のない損害は賠償されないわけではありません。また、「指針」の計算方法を越える損害が認められないわけでもありません。原子力損害賠償紛争審査会は「指針」を発表するときは、最低限、このことを説明すべきだったのです。これをしないから、誤解と無用な不安を引き起こすことにもなってしまいました。
 本論考をお読みの方は、周りの被災者にこのことを説明してあげていただけないでしょうか。(弁護士 樋口和彦)

2011年6月20日月曜日

知事選候補者に公開質問状を送付

本日、4名の知事候補者に以下の質問状を送付しました。

       公開質問状

原子力発電所問題に関する見解をお聞かせください。

原子力発電を考える群馬の会
代表 弁護士 樋口和彦

私どもは、3月11日に起きた福島第1原子力発電所の事故を機に、原子力発電問題について科学的に考えそれを県政に活かすことを目的に、原発問題に関心を持つ群馬県内の医師、弁護士、元原発設計者などで結成された団体です。

さて、福島第1原子力発電所の事故は原子力発電所のない群馬県にも多大な影響を及ぼしました。3月の計画停電にとどまらず、出荷制限を余儀なくされた農業をはじめ観光業その他各種産業や教育現場など広く県民生活全般に広範な影響を及ぼし、3ヶ月が経過した今も収束の見通しも立っていません。

これまで、群馬にとって原発問題は他県のことでしかありませんでした。しかし、そのような認識が間違いであることが今回の事故で明らかになりました。原子力発電問題にどう対応するか、それが今後の県政の重要な課題に浮上したことは間違いありません。

そこで、7月3日(日)開票予定の群馬県知事選挙に立候補された皆様に原子力発電所問題についてのお考えをお聞きしたく、公開質問状を出させていただくことにしました。

別紙の質問に、貴殿の率直なご意見をお聞かせください。

なお、この質問状および皆様方の回答は、私どものホームページや記者開会で公表するとともに、8月下旬に開催予定のシンポジウムで配布する予定です。

お忙しい折とは存じますが2011年6月26日(日)までに下記事務局まで郵送、FAX またはメールにてご返事をお送りください。ご協力をよろしくお願いいたします。

末尾になりましたが、皆様のご健闘を心から祈念させて頂きます。

事務局 杉山弘一 E-mail:h-sugiyama@vinderouge.com

1.放射線被曝に対する県民の不安の解消について
県内各地で平常値よりも高い空間放射線量率が計測されていることなどから、小さい子供を持つ家庭や教育現場を中心に県民に不安が拡がっています。これらの不安を解消するために、県としてどのような方策を執っていくべきとお考えでしょうか。

2.被災者の受入や支援について
県内各地の自治体、民間の団体あるいは個人で、被災者の受け入れが行われています。これらの受入はさらに長期にわたることが予想され、受け入れ側の負担も大きくなっています。これらの負担を軽減し、被災者の支援を進めていくために、県としてどのような方策を執っていくべきとお考えでしょうか。

3.損害賠償の支援について
事故は、県内の農業をはじめ観光業その他の産業に大きな被害をもたらしました。国は損害賠償は第一義的には東京電力が行うものとしていますが、県内の中小事業者が東京電力と個別に損害賠償の交渉を行うことは、大きな困難が付きまといます。そこで、損害賠償が確実に行われるために、県としてどのような方策を執っていくべきとお考えでしょうか。

4.電力問題について
3月の計画停電は、県民に多くな混乱をもたらしました。さらに、この夏も大きな節電を余儀なくされております。このような混乱を防ぐためには平素からの準備が大切であることを改めて思い知らさせれました。
そこで、安定した電力供給のため、県としてどのような方策を執っていくべきとお考えでしょうか。

5.エネルギー問題について
我が国は、これまで原子力発電をエネルギーの中心にした政策を進めてきました。今回の事故で、改めてその是非が問われています。そこで、今後のエネルギー政策のなかで、原子力発電をどのように位置づけるべきだとお考えでしょうか。
以上