7月3日(日)開票予定の群馬県知事選挙に立候補者に、原子力発電所問題についての公開質問をしたところ、昨日までに2名の候補者(後藤候補、小菅候補)から回答が得られましたのでその内容をお知らせします。選挙戦真っ最中にもかかわらず、丁寧な回答を寄せてくれた両候補の原発問題に対する真摯な対応を多としたいと考えます。
いずれの候補も、同様な問題意識を持たれ脱原発という同じ方向を目指していますが、政策の具体化のところで違いが見られました。それぞれ興味深い提言もありましたが、具体性や実現性に疑問を感じる点もなくはなく、現実の政策とするには更なる検討が必要であるようです。それはともかく、4人の候補者中2名が脱原発を主張する事態となり、これまでの「安全神話」を背景とする積極的原発推進とは異なる新しい潮流が現われてきたことは明らかだと思います。残りの選挙戦を通じて、原発事故問題に関する議論がより深まることを期待するとともに、どの候補者が当選しても、今後、この問題についての県民の意思を的確に収集・反映することが求められているとの感を強くします。
質問1.放射線被曝に対する県民の不安の解消について
県内各地で平常値よりも高い空間放射線量率が計測されていることなどから、小さい子供を持つ家庭や教育現場を中心に県民に不安が拡がっています。これらの不安を解消するために、県としてどのような方策を執っていくべきとお考えでしょうか。
【後藤候補の回答】
①正確できめ細やかな放射能の測定と迅速な情報公開。また、測定機器を保健所に備え不安を自ら測定できる体制を作る。
②福島第一発電所で起こっている事態を県として独自に情報を収集し公開する。現状では東京電カと政府発表の信頼性が少なく不安が解消できない。
③保健所に「放射能なんでも相談室」を設置し、放射能についての正確な知識と情報、啓発を強める。
【小菅候補の回答】
まず、徹底したきめ細かい計測を行い、「見えない放射線」を 「見える」ようにすること。その上で、線量率の高い校庭・園庭,公園などについては、表土の入れ替えなどの措置を取る必要がある。さらに父母・教師や予どもたちの声を聞き、専門家の意見も集約しながら、県民に健康被害が及ばないよう万全の措置をとることが必要。
【当会のコメント】
計測を充実させることが必要である点については、両候補とも同じ見解でした。後藤候補は、測定機器を保健所に備え住民自ら測定できる体制を作る、県独自の情報収集、放射能なんでも相談室の設置と踏み込んだ提言をしています。
一方、小菅候補は、計測にとどまらず表土の入れ替えなどと除染の必要性まで言及しています。
ただし、「福島第一発電所で起こっている事態についての県独自での情報収集と公開」(後藤候補)については、東電が情報を出さない限り実行できませんから、実現性に疑問を感じざるを得ません。また、「父母・教師や予どもたちの声を聞き、専門家の意見も集約」(小菅候補)ついても、方法について具体性が乏しいと感じました。
質問2.被災者の受入や支援について
県内各地の自治体、民間の団体あるいは個人で、被災者の受け入れが行われています。これらの受入はさらに長期にわたることが予想され、受け入れ側の負担も大きくなっています。これらの負担を軽減し、被災者の支援を進めていくために、県としてどのような方策を執っていくべきとお考えでしょうか。
【後藤候補の回答】
①被災生活が長引くことが予想されるため働く希望者全員に職場を斡旋・提供する。農作業なども含め被災者希望を正確に把握した就労支援。
②被災者支援ボランテイアの育成と組織化。
【小菅候補の回答】
被災者は地震・津波という天災の被害者であるとともに、原発事故という人災の被害者でもある。それだけに、すべての被災者が1日も早く人間的な生活を取り戻せるよう支援すること、金銭的にも苦境におちいらないよう支援することは・政治の重要な役割。
災害救助法による国の費用負担の適用が必ずしも十分におこなわれていない状況もあり、県としてこれを最大限活用していく。また、避難者の住居費、生活費、医療・教育費などについての東電による補償も確実に実施させる。以上の点で全力をあげることを前提に、それでも不足する場合は、県民の理解を得ながら県独自の予算措置を講じることも検討する。
【当会のコメント】
両候補とも、被災者のより一層の支援が必要としている点は同じでした。後藤候補は就労支援をより重要と考えているようです。また、ボランティアの必要性についても言及しています。一方、小菅候補は、災害救助法による国の費用負担や県独自の予算措置、東電による補償など予算について踏み込んでいます。
質問3.損害賠償の支援について
事故は、県内の農業をはじめ観光業その他の産業に大きな被害をもたらしました。国は損害賠償は第一義的には東京電力が行うものとしていますが、県内の中小事業者が東京電力と個別に損害賠償の交渉を行うことは、大きな困難が付きまといます。そこで、損害賠償が確実に行われるために、県としてどのような方策を 執っていくべきとお考えでしょうか。
【後藤候補の回答】
①損害についての正確な情報の収集と損害額の確定。
②損害を受けた他県との情報交換と連携。
③弁護士など専門家の協力を待て東京電力や国と話し合いを進める。
【小菅候補の回答】
JA が生産者の被害補償交渉をまとめて実施したように、同様の取り組みができる業界団体については、県としてもそれを支援していくことが必要。また、その枠組にはいらない事業者については、県・市町村に相談窓口をつくり、その実態に合わせて新たな 「団体」を立ち上げるなどの支援をおこなっていくべき。これらの推移をきちんと掌握し、さらに必要なことがあれば惜しみなく手立てを講じる。いずれにしても、県としても被害の救済漏れが1人でも生じないよう万全の対応をするべき。
【当会のコメント】
両候補とも、損害賠償の支援が必要としていました。後藤候補は、他県との情報交換と連携および弁護士など専門家の協力をあげ、小菅候補は相談窓口の設置および新たな団体の立ち上げなどをあげています。
質問4.電力問題について
3月の計画停電は、県民に多くな混乱をもたらしました。さらに、この夏も大きな節電を余儀なくされております。このような混乱を防ぐためには平素からの準備が大切であることを改めて思い知らさせれました。
そこで、安定した電力供給のため、県としてどのような方策を執っていくべきとお考えでしょうか。
【後藤候補の回答】
① 出来る限り生活を見直し節電に努める県民啓発活動の強化。
② 民間企業に対しても業種月り,業界団体別に節電計画策定を指導し実践する。
③ 電力供給情報の正確な把握と情報公開。
【小菅候補の回答】
大企業の大口需要に対して、需要調整契約による需要抑制、電気事業法に基づく使用制限など、現行の制度の下でも可能な対応によって、県民生活への影響可能な限り少なくするよう、政府・東電に強く働きかけることが必要。また、県内でも都市部を中心に「24時間社会」といえるような状況もあるなか、「エネルギー社会」にむけたとりくみを大胆に呼びかけていく。自然エネルギーの普及拡大のために、家庭の太陽光発電設備や小水力・風力などを利用した地域発電への県としての補助制度を拡充・創設し、取り組みを加速していくことが緊急に必要。
【当会のコメント】
両候補とも、省エネの取り組みが必要と考えていました。具体的な政策としては、後藤候補は業界団体別に節電計画策定を指導することをあげ、小菅候補は自然エネルギーへの県としての補助制度を拡充・創設することをあげています。
いずれも、具体的な政策とするにはさらなる検討が必要だと感じました。また、県企業局で行っている発電事業への言及がなかった点には物足りなさを感じました。
質問5.エネルギー問題について
我が国は、これまで原子力発電をエネルギーの中心にした政策を進めてきました。今回の事故で、改めてその是非が問われています。そこで、今後のエネルギー政策のなかで、原子力発電をどのように位置づけるべきだとお考えでしょうか。
【後藤候補の回答】
①脱原発。原子力発電は、計画的に廃止する。現在操業を休止している原発については再起動しない。操業中の原発についても計画的に廃止する。
②群馬県の自然エネルギーの潜在力は高いので、自然エネルギー開発研究センターを設置し「自然エネルギー日本一」の県を作る。世界から優秀な研究者を招致する。
③日本のエネルギー政策の抜本的な改革を行い技術の総力を自然エネルギーや高性能蓄電装置の開発等に注ぐよう政府に要求する。
【小菅候補の回答】
原発から撤退する姿勢を明確に打ち出し、5~I0年以内に全廃させるべき。そのためのプログラムを策定するよう、政府に強く働きかけていく。「安全な原発」などありえないことは、今度の福島原発事故で嫌というほど明確になった。原発の新増設計画を中止・撤回することはもちろん、危険が特に大きい浜岡原発などの廃炉をすみやかに決断し、実行することが大事。同時に、電力不足による社会的混乱や安易な火力発電への転換 (CO2の増大)を避けるために、自然エネルギーの本格的導入と低エネルギー社会に向けての努力を急速に進めていかなくてはならない。
【当会のコメント】
両候補とも脱原発を鮮明に打ち出しています。後藤候補は、原発を再起動をしないとしていますが、毎年定期点検が行われることを考えると、これは来年夏前にはすべての原発を停止することになります。果たして、1年で節電や自然エネルギーで電力需要をまかなえる体制が造れるのでしょうか、実現性に疑問を感じざるを得ません。小菅候補は、5~10年以内に全廃とスピードに差がありますが、やはり、もっと具体的な検討が必要であると感じました。
なお、原子力発電と一括りにした設問であったので、致し方ありませんが、いずれの候補からも核燃料サイクルについての言及がなかった点については、物足りなさを感じました。
福島県のエネルギー政策検討会が、核燃料サイクルを含むエネルギー政策全般についてかなり突っ込んだ検討と提言をし、報告書・パンフレットを公表しています。それらを参考にして、さらに議論を深めていって欲しいと思います。